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青森地方裁判所 昭和34年(ワ)50号 判決

原告 青森県信用農業協同組合連合会

被告 武井巳之吉

主文

青森地方裁判所昭和三十年(ヌ)第七十五号不動産強制競売事件について、昭和三十四年三月二十七日当裁判所が作成した配当表を変更し、被告に対する配当に代え原告に金十九万七千四百六円を交付する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、被告は訴外原別農業協同組合に対する債権に基き、同組合所有の建物に対し未登記の建物として青森地方裁判所に不動産強制競売の申立をし、同庁においては右申立に基き昭和三十年(ヌ)第七十五号事件として強制競売手続開始決定をなし、右建物については競売開始決定に伴う登記嘱託に基き昭和三十年十二月十四日別紙第一目録記載のとおりの表示をもつて所有権保存登記が経由された上手続が進められ、昭和三十二年七月二十四日競落許可決定があり、昭和三十四年三月二十七日配当期日が開かれ、競売代金二十一万円より競売手続費用金七千五百八十四円を控除した金二十万二千四百十六円のうち金五千十円を訴外青森市に、残金十九万七千四百六円を被告に配当するとの配当表が作成せられた。

二、原告は次に述べる理由に基き、配当期日に出頭して右配当表につき異議を申立てた。即ち訴外組合所有の前記建物については既に昭和二十七年三月十八日別紙第二目録記載どおりの表示をもつて所有権保存登記が経由せられていた(訴外組合は前記建物以外には建物を所有せず、その構造は店舗と倉庫の合体連続した一棟建であつて、所在地番は別紙第二目録のとおり青森市大字原別字上海原六十四番一号であり、他方別紙第一目録に建物の所在地番として表示の同字六十四番二号は現実には訴外千葉茂所有の田であつて同地上にはなんらの建物も存しない。従つて別紙第二目録に従つた登記こそが正しく訴外組合所有の建物を表示するのみならず、既登記の建物につき更になされた同第一目録記載の表示による保存登記は無効とさえいうべきである。)。そして原告は昭和二十九年五月二十四日右建物につき訴外組合との間に債権元本極度額を金百万円とする根抵当権の設定契約を結び、同日右登記簿上にその設定登記を経由し、右抵当権による担保の下に原告は訴外組合に対し金員を貸付け、現在次のとおりの債権を有する。

(イ)  元本 金五十万円

(ロ)  利息 金九万三千二百四十八円

内訳

金百十一円 金五十五万円に対する昭和三十年一月一日から同年二月五日迄年一割一分の割合による約定利息の残金

金五万四千五百三十二円 金五十五万円に対する昭和三十年二月六日から同年十二月三十一日迄年一割一分の割合による約定利息

金三万八千六百五円 金三十五万円に対する昭和三十一年一月一日から同年十二月三十一日迄年一割一分の割合による約定利息

(ハ)  遅延損害金九万二千九百七十五円

内訳

金五万七千百円 金二十万円に対する昭和三十一年一月一日から昭和三十二年七月二十四日迄日歩五銭の割合による損害金

金三万五千八百七十五円 金三十五万円に対する昭和三十二年一月一日から同年七月二十四日迄日歩五銭の割合による損害金

以上合計金六十八万六千二百二十三円。

よつて本件競売手続においては競売の目的物件につき抵当権を有する原告に対し被告の債権に優先して弁済せらるべきものであるからこれに従い、前記配当表の変更を求めるため本訴に及ぶ。と述べ、

立証として甲第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第五号証を提出し、証人千葉忠司、今村文一の各証言を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は本案前の主張として、訴却下の判決を求め、その理由として、原告は本件配当表に記載された債権者でないからこれにつき異議訴訟を提起する資格がない。と述べ、

本案につき、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、一、事実は認める。二の事実中主張の建物につき二重に保存登記が経由せられていること及び別紙第一目録に建物の所在地番として表示されている青森市大字原別字上海原六十四番二号が千葉茂所有の田であることは否認する。その余の事実は知らない。と述べ、

立証として、乙第一号証、第二号証の一、二を提出し証人鹿内嘉作の証言を援用し、甲第四号証の成立は不知、第五号証中登記官吏作成部分の成立を認めその余の部分は不知、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

被告が訴外原別農業協同組合に対する債権に基き、同組合所有の建物に対し未登記の建物として当庁に不動産強制競売の申立をし、当庁において昭和三十年(ヌ)第七十五号事件として強制競売手続を開始し、右建物については競売申立の登記嘱託に基き昭和三十年十二月十四日別紙第一目録記載のとおりの表示により所有権保存登記が経由された上手続が進められ、昭和三十二年七月二十四日競落許可決定があり、昭和三十四年三月二十七日記当期日が開かれ、競売代金二十一万円より競売手続費用金七千五百八十四円を控除した金二十万二千四百十六円のうち金五千十円を訴外青森市に、残金十九万七千四百六円を被告に配当するとの配当表が作成されたことは当事者間に争がなく、原告が別紙第二目録のとおりの表示により登記せられた訴外組合所有の建物につき主張のような抵当権を有しこれにより担保せられた同組合に対する金五十万円の貸金とこれに対する金八万四千五百七十五円の利息及び損害金債権を有すると称して、競落期日を経過した昭和三十四年三月十六日当庁に交付要求書を提出し、且つ同月二十五日には原告主張のような債権額につき計算書を提出したこと、原告が前記配当期日に出頭して配当表につき異議を申立てたが同日その異議が完結しなかつたことはいずれも当裁判所に顕著な事実である。

本訴は原告において前記配当表につき異議を唱え、その変更を求めるものであるところ、被告は、原告は配当表に記載された債権者ではないからかような訴を提起する資格がない旨主張するので按ずるに、本件における原告のように配当期日に出頭して異議を申立てた者が競売物件につき抵当権を有し且つこれにより担保せられた債権を有する旨主張して、前記のとおり交付要求書を提出している以上、これにより訴提起の資格は十分とみるべきであり、若しその者がなんらかの理由で配当表に記載されなかつたとしてもそのことだけで異議ないし異議訴訟を提起する資格がないとすべきいわれはないから被告の右主張は採用の限りでない。

そこで原告の主張事実につき検討を進めることとする。証人今村文一の証言と登記官吏作成部分の成立に争がなく右証人の証言によりその余の部分の成立を認め得る甲第五号証によると原告は別紙第二目録記載どおりの所有権保存登記により表示される訴外組合所有の建物につき昭和二十九年五月二十四日同組合との間に極度額を百万円とする根抵当権設定契約を結び、同年六月十日右登記簿上にその設定登記を経由したことが認められる。そして別紙第一目録記載の建物と同第二目録記載の建物とをその表示自体において比較すれば、その所在地番において前者は青森市大字原別字上海原六十四番二号であるのに対し、後者は同番一号であり、又前者が二個の建物とせられるのに対し後者が一個の建物であるとの差異はあるがその総建坪数においてはいずれも六十坪(中いずれも二階十坪)であつて両者は極めて近似するものであり、成立に争のない乙第二号証の一、二によると本件競売の目的とされた建物の構造は事務室と倉庫とが接着して一体をなしているためこれが一個の建物として表示されても決して不自然でないことが認められ、又証人千葉忠司、鹿内嘉作の各証言によると現実には右建物以外に訴外組合所有の建物は一として存在しないことが認められるのであつて、以上の事実によれば別紙第一目録の建物の登記も第二目録の建物のそれも、現実の同じ建物をめぐる二重の登記というべく、その各々の登記簿こそ異なれ現実の同じ建物につき被告は強制競売を申立て、原告は登記を経由した前記根抵当権を有するものといわざるを得ないのである。そして証人今村文一の証言とこれによりその成立を認め得る甲第四号証によると原告は右抵当権による担保の下に訴外組合に対しその主張のような貸金元本残金五十万円と主張のような利息金九万三千百四十三円(但し、主張の金三十五万円に対する昭和三十一年一月一日から同年十二月三十一日迄年一割一分の利息として金三万八千六百五円とあるのは金三万八千五百円の違算であると認める。)並に元本金五万円に対する昭和三十一年一月一日より昭和三十二年七月二十五日迄日歩五銭の割合による遅延損害金(金五千百七十五円)と元本金十五万円に対する昭和三十一年一月一日以降、元本金三十五万円に対する昭和三十二年一月一日以降いずれも今日までの右と同率による遅延損害金債権を有することが認められるから、原告のした前記交付要求書の提出は抵当権付の債権に基く交付要求として適法であり、他方被告の債権が優先権を有しないものであることは当裁判所に顕著な事実であるから原告の前記債権は被告の債権に先立つて交付を受け得べきでものである。

してみれば本件配当表中の被告に対する配当十九万七千四百六円はこれをとりやめこれに代えて原告の債権元本金五十万円、利息金九万三千百四十五円、遅延損害金二十三万六千六百二十五円(配当期日迄の計算による)計金八十二万九千七百六十八円に対し右金十九万七千四百六円を原告に交付すべきものであり、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

第一目録

青森市大字原別字上海原六十四番二号

家屋番号同大字第一七一番四号

一、木造木羽葺二階建店舗 一棟

建坪 十坪

二階 十坪

一、木造木羽葺平家建倉庫 一棟

建坪 四十坪

第二目録

青森市大字原別字上海原六十四番一号

家屋番号同大字第一八三号

一、木造本羽葺二階建事務所 一棟

建坪 五十坪

二階 十坪

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